企業の「本当の稼ぐ力」を読み解くための基礎知識
損益計算書(PL)を読むと、
「営業利益」「経常利益」「当期純利益」
といった似たような名前の利益が並んでいます。
しかし、これらは企業の状態を判断するための全く異なる指標であり、違いを理解することは「企業の健康診断の読み方」を覚えるのと同じくらい重要です。
この記事では、初心者でも迷わないように、利益の流れを丁寧に解説し、日常の例えや表を活用して理解を深めていきます。
1. 利益は「階段構造」で理解すると一気にわかりやすくなる
利益の種類は多数ありますが、損益計算書は上から順に階段状に利益が積み上がる構造になっています。
一段目:売上総利益(粗利)
二段目:営業利益
三段目:経常利益
四段目:当期純利益

利益から考える損益計算書の基本
利益は、上から順番に
「本業 → 企業全体 → 最終的に残る利益」
という流れで絞り込まれていきます。
例えばトヨタ自動車は自動車を生産し販売するのが本業ですから、自動車販売の利益は一番初めに出てきます。一方、何年か保有していた会社の土地などを売って儲けた利益は、本業以外の利益として、損益計算書の後の方の利益として記載されます。
■ 日常の例でたとえると…
あなたが小さなカフェを運営しているとします。
- 売上総利益…材料費を引いた“売上の純粋な儲け”
- 営業利益…家賃や人件費、光熱費を払って残る“本業の利益”
- 経常利益…銀行利息や借入金の利息も含めた“総合的な利益”
- 当期純利益…最終的に税金を払った後の“本当に残った利益”
このように、利益は段階的に「本当に残るお金」に近づいていきます。
2. 営業利益とは?(企業の本業から生まれた利益)
営業利益 = 売上総利益 − 販売費および一般管理費(販管費)
営業利益は、企業が“本業”だけでどれだけ稼いだかを示す利益です。
たとえば飲食店なら
- 売上(お客様からの代金)
- 食材費(売上原価)
- 人件費・家賃・光熱費(販管費)
これらを差し引いて残る利益が「営業利益」です。
■ もっとかみ砕いた例
コンビニを想像してください。
- おにぎりを150円で売った
- 原価が60円
- 売るためにかかった人件費・家賃・電気代などで70円消費
→ 最終的に20円残ったなら、それが営業利益です。
■ 営業利益でわかること
- 本業がうまくいっているか ← これが大事!
- 利益が出るビジネスモデルになっているか
- 無駄なコストが多くないか
- 同業他社と比較した競争力
営業利益は企業の「実力」が最も表れるため、経営者・銀行・投資家は特に重視します。
3. 経常利益とは?(企業全体の稼ぐ力を示す利益)
経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 − 営業外費用
経常利益は、企業の通常活動全体から生まれる利益です。
営業利益との差は、「本業以外の損益」が含まれる点です。
含まれるもの
営業外収益(プラス要因)
- 銀行預金の利息
- 関連会社からの配当
- 有価証券の運用益 など
営業外費用(マイナス要因)
- 借入金の利息
- 投資損失
- 為替差損 など
■ 日常の例え:個人の家計に置き換えると
あなたが毎月働いて得る給与 → 本業の収入(営業利益)
そこに
- 銀行の利息 → 営業外収益
- クレジットカードの分割手数料 → 営業外費用
これらも加味された「最終的な家計の収支」が経常利益に近いイメージです。
■ 経常利益でわかること
- 借入金が多くて利息負担が重いか
- 財務戦略がうまくいっているか
- お金の使い方や運用が適切か ← これが大事!
- 本業以外の収益力(財務の実力)
営業利益よりも「企業全体の安定性」が見える指標です。
4. 当期純利益とは?(最終的に会社に残った利益)
当期純利益 = 経常利益 + 特別損益 − 法人税等
最終的に会社に残る利益が「当期純利益」です。
ここには、一時的な損益である「特別損益」と、税金が関わってきます。
■ 特別損益とは?
一時的で非日常的な利益・損失のこと。
例)
- 工場や土地の売却益
- 災害による特別損失
- 事業の一部の売却益/売却損
- 訴訟対応で発生した損失
これらは“たまたまその年だけ発生したもの”なので、本業の実力とは関係ありません。
■ 当期純利益は最終利益だが「本業の評価には使えない」ケースも
例えば・・・企業によっては、
- 本業が赤字でも土地売却益で黒字になる
- 本業が黒字でも災害損失で赤字になる
こうしたことがあり得るため、
当期純利益だけで企業の実力を判断するのは危険です。
■ 当期純利益でわかること
- 株主に最終的に分配できる利益
- 会社の内部留保となる金額
- 中長期的な投資余力
企業の“蓄える力”を見る指標と言えます。
5. 3つの利益の違いを「比較表」で確認
| 利益の種類 | どんな利益? | 含まれる項目 | 重要度 | 見えること |
|---|---|---|---|---|
| 営業利益 | 本業で稼いだ利益 | 粗利 − 販管費 | ★★★★★ | 本業の強さ、競争力 |
| 経常利益 | 企業活動全体の利益 | 営業外収益・費用を含む | ★★★★☆ | 財務力、資金調達の巧さ |
| 当期純利益 | 最終的に会社に残る利益 | 特別損益・税金を反映 | ★★★☆☆ | 株主価値、内部留保 |
6. 「どの利益が一番大事?」への答え
目的によって異なります。
本業の実力 → 営業利益を重視
中小企業コンサルでも銀行融資でも最重要。
企業の総合的な安定性 → 経常利益を見る
特に財務の健全性をチェックする際に使う。
企業が最終的にどれだけ儲かったか → 当期純利益
株主や投資家にとって必須。
7. 具体例:ある会社の利益構造
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売上高 | 10,000万円 |
| 売上総利益 | 3,000万円 |
| 販管費 | 2,000万円 |
| 営業利益 | 1,000万円 |
| 営業外収益(利息など) | 100万円 |
| 営業外費用(借入利息など) | 150万円 |
| 経常利益 | 950万円 |
| 特別損失(災害など) | 200万円 |
| 法人税等 | 200万円 |
| 当期純利益 | 550万円 |
■ ある会社の利益はこのように考えることができます
- 本業の儲け:1,000万円(営業利益)
- 財務の影響を入れたら:950万円(経常利益)
- 一時的な損失と税金を払ったら:550万円(当期純利益)
8. 初心者がまず押さえるポイントまとめ
- 営業利益が最も大事(本業の強さを見る)
- 経常利益は「全体の安定性」を判断する
- 当期純利益は「最終的に残った利益」
- 特別損益や税金で利益は大きく変動する
- 損益計算書は「上から順番に読む」と理解しやすい
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この記事を書いた人
経産省 認定支援機関 株式会社エイチアンドエイチ
代表取締役 畠中 均(はたなか ひとし)
大手企業を退職後、20代で起業しゼロから複数の事業を展開。現在は、25年以上の経営経験を活かし、認定支援機関として現場経験豊富な経営者としての目線で中小企業支援を行うほか、士業・コンサル向けに中小企業支援の実践的ノウハウを学べる機会の提供にも注力している。
