会社を設立する際には、法務局へ提出するための書類を正しく準備する必要があります。
株式会社や合同会社など、会社形態によって必要な書類は異なり、綴じ方や提出方法にも細かなルールがあります。
この記事では、会社設立時に必要な書類の一覧と取得方法、さらに資本金の設定に関する重要なポイントまで、初心者にもわかりやすく解説します。
これから会社を立ち上げようと考えている方は、ぜひ最後までご覧ください。
1️⃣はじめに|会社設立に必要な書類とは?
会社設立には、法務局へ提出する「登記申請書類」が必要です。
これらの書類は、会社の基本情報や役員構成、資本金の払込み状況などを証明するもので、正確に作成・提出しなければ登記が受理されません。
提出する書類は、株式会社・合同会社のどちらを設立するかによって若干異なります。
また、書類の不備や記載漏れがあると、登記が遅れるだけでなく、申請が却下される可能性もあるため注意が必要です。
この記事では、株式会社・合同会社の両方に対応した書類の一覧と、取得・提出方法について詳しく解説していきます。
2️⃣株式会社・合同会社で異なる書類の違い
会社を設立する際には、まず「どの会社形態で設立するか」を決める必要があります。
日本で一般的に選ばれるのは「株式会社」か「合同会社」の2つです。どちらも法人格を持ち、事業活動を行うことができますが、設立に必要な書類や運営の仕組みには違いがあります。
🔷株式会社とは?
株式会社は、株式を発行して資金を集めることができる会社形態です。
取締役や株主総会などの組織が必要で、企業としての社会的信用が高く、上場を目指すことも可能です。
メリット
- 社会的信用が高く、取引先や金融機関からの評価が良い
- 出資者(株主)と経営者(取締役)を分けることができる
- 将来的に株式上場が可能
デメリット
- 設立時に公証役場で定款認証が必要(手間と費用がかかる)
- 役員構成や機関設計が複雑
- 決算公告の義務がある
🔸合同会社とは?
合同会社は、2006年の会社法改正で新たに導入された会社形態で、アメリカのLLC(Limited Liability Company)をモデルにしています。
出資者がそのまま経営者となるため、意思決定がスピーディで、設立費用も安価です。
メリット
- 設立費用が安く、定款認証が不要
- 経営者と出資者が一致しているため、意思決定が早い
- 決算公告の義務がない
デメリット
- 社会的信用が株式会社に比べて低い傾向がある
- 株式発行ができないため、資金調達の手段が限られる
- 上場ができない
このように、会社形態によって設立後の運営スタイルや外部からの評価が異なるため、事業の目的や規模に応じて適切な形態を選ぶことが重要です。

弊社でお付き合いする方の中にも、株式会社と合同会社の違いがわからずお困りの方は一定数いらっしゃいます。
弊社からのアドバイスとしては、今後事業を拡大する過程で、社会的信用が必要となることが想定される方は株式会社を選択すべきです。
具体的な例としては、今後設備投資などで銀行から融資を受ける可能性がある業種の方は株式会社をおすすめします。
一方、事業を運営するための主体が必要なだけといった場合は合同会社の方が設立費用が安くおすすめです。
この割り切った考え方は外資企業がよく実践しており、たとえばインターネット販売で有名なアマゾンの日本法人は「アマゾンジャパン合同会社」として合同会社の形態を選択しています。
なお、設立時の費用以外にも役員にかかる責任等、株式会社と合同会社では様々な違いがありますので、会社設立前に会社形態の違いによるメリットとドメリットをよくご確認下さい。
そして、会社形態の違いは、設立時に必要な書類にも影響します。以下の表は、株式会社と合同会社で必要となる書類の違いをまとめたものです。
📄書類名 | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|
登記申請書 | 必要 | 必要 |
登録免許税納付用台紙 | 必要 | 必要 |
定款 | 必要(公証役場で認証) | 必要(認証不要) |
発起人の決定書 | 必要 | 必要 |
設立時取締役の就任承諾書 | 必要 | 不要 |
設立時代表取締役の就任承諾書 | 必要 | 代表社員の就任承諾書が必要 |
設立時取締役の印鑑証明書 | 必要 | 代表社員の印鑑証明書が必要 |
資本金の払込み証明書 | 必要 | 必要 |
印鑑届出書 | 必要 | 必要 |
登記すべき事項の書面またはCD-R | 必要 | 必要 |
この表を参考に、自分が設立したい会社形態に応じて、必要な書類を正しく準備していきましょう。
3️⃣💰資本金の設定で困らないための5つのポイント
会社設立時には、資本金の額を決定する必要があります。
資本金は「会社の体力」や「信用力」を示す重要な指標であり、税制や融資、許認可などにも影響を与えるため、慎重に設定しなければなりません。
ここでは、資本金を決定する際に注意すべき5つのポイントを解説します。
3-1. 節税のために1,000万円未満にする
資本金を1,000万円未満に設定することで、設立初年度から最大2年間、消費税の免税措置を受けることができます。
また、法人住民税も資本金1,000万円以下であれば年間7万円ですが、1,000万円を超えると18万円以上になるため、少なくとも11万円の節税が可能です(従業員50人以下の場合)。
特別な理由がない限り、資本金は1,000万円未満に設定するのが一般的です。
3-2. 実店舗がある銀行の口座を開設するなら100万円以上にする
メガバンクなどの実店舗を持つ銀行で法人口座を開設したい場合、資本金が100万円以上あるとスムーズです。
資本金が極端に少ないと、信用力の面から口座開設を断られるケースもあります。
銀行との取引を円滑に進めるためにも、最低でも100万円以上の資本金を設定することをおすすめします。
3-3. 融資を希望するなら100万円以上にする
創業融資を受けたい場合、資本金は100万円以上が望ましいです。
金融機関は資本金を「返済能力の指標」として見ており、資本金が少ないと融資審査で不利になる可能性があります。
また、資本金は信用調査の対象にもなるため、取引先との信頼関係を築くうえでも重要です。
3-4. 許認可の種類によっては最低資本金額が定められている
特定の業種では、行政から許認可を受ける際に最低資本金額が定められている場合があります。
例えば、人材派遣業では2,000万円以上、旅行業では最大3,000万円以上の資本金が必要です。
以下は一部の許認可と最低資本金額の例です:
業種 | 許認可 | 最低資本金額 |
---|---|---|
人材紹介業 | 有料職業紹介業 | 500万円以上 |
人材派遣業 | 労働者派遣業 | 2,000万円以上 |
旅行業 | 第1種旅行業 | 3,000万円以上 |
建設業 | 特定建設業 | 2,000万円以上 |
事業内容に応じて、必要な許認可と資本金要件を事前に確認しておきましょう。
3-5. 運転資金面で不安を残さないなら初期費用3ヶ月分以上にする
会社設立後、すぐに売上が立つとは限りません。
取引先からの入金が3ヶ月後になることも想定し、初期費用の3ヶ月分以上を資本金として確保しておくと安心です。
初期費用には、事務所の賃料、オフィス什器、パソコンなどの設備費が含まれます。
運転資金には、従業員の給与、光熱費、通信費などの毎月の固定費が含まれます。
資本金は、その後の経営を考え余裕を持った金額を設定しましょう。
4️⃣🗂会社設立に必要な書類一覧(全10種類)
会社設立時には、法務局へ提出するための書類を正しく準備する必要があります。
ここでは、株式会社・合同会社の設立に共通して必要な書類と、それぞれの取得方法や注意点について解説します。
① 登記申請書
会社の設立登記を申請するための基本書類です。会社名、本店所在地、資本金額、登記の事由などを記載します。
株式会社の場合は、取締役会の有無によって様式が異なるため、法務局の公式サイトで最新の様式を確認しましょう。
② 登録免許税納付用台紙
登録免許税は収入印紙で納付します。郵便局または法務局で購入した収入印紙を、この台紙に貼り付けて提出します。
株式会社は最低15万円、合同会社は最低6万円が必要です(資本金額によって変動)。
③ 定款
会社の基本ルールを定めた書類です。事業目的、商号、本店所在地、資本金額、発起人の氏名・住所などを記載します。
株式会社の場合は、公証役場で定款の認証が必要です。合同会社は認証不要です。
④ 発起人の決定書
本店所在地や代表者の選定など、発起人が合意した内容を記録した書類です。
定款に本店所在地を番地まで記載していない場合は、必ず提出が必要です。
⑤ 設立時取締役の就任承諾書
株式会社の設立時に、取締役として就任することを承諾する書類です。合同会社では不要です。
⑥ 設立時代表取締役の就任承諾書
代表取締役(または合同会社の場合は代表社員)が就任を承諾したことを証明する書類です。
取締役と代表取締役が同一人物の場合は不要になるケースもあります。
⑦ 設立時取締役の印鑑証明書
設立時取締役(または代表社員)の印鑑証明書です。複数人いる場合は全員分を提出します。
印鑑証明書は市区町村の役所で取得できます。
⑧ 資本金の払込み証明書
資本金が払い込まれたことを証明するため、通帳のコピーを提出します。
表紙、口座名義、払込み記録のあるページをコピーし、会社実印で契印します。
⑨ 印鑑届出書
会社の実印を法務局に登録するための書類です。登記申請と同時に提出します。
オンライン申請の場合は、電子署名を用いて登録することも可能です。
⑩ 登記すべき事項の書面またはCD-R
登記簿に記載される内容(会社名、所在地、役員など)を記載した書面、またはCD-Rに保存した電子ファイルを提出します。
現在はOCR用紙の配布が終了しているため、CD-Rでの提出が推奨されています。
5️⃣📎書類の綴じ方と注意点
登記申請書類は、提出時に正しい順序で綴じる必要があります。
綴じ方が不適切だと、法務局で受理されない可能性もあるため注意しましょう。
【綴じる順番】
- 登記申請書
- 登録免許税納付用台紙
- 定款
- 発起人の決定書
- 各就任承諾書
- 印鑑証明書
- 資本金の払込み証明書
印鑑届出書は綴じずに、クリップなどで別添します。
また、契印(書類の綴じ目に会社実印を押すこと)を忘れずに行いましょう。
6️⃣📮書類の提出方法(窓口・郵送・電子申請)
登記申請書類は、以下の方法で提出できます。
- 法務局の窓口へ直接持参
- 郵送(書留推奨)
- 電子申請(登記・供託オンライン申請システム)
郵送の場合は、本店所在地を管轄する法務局へ送付します。
電子申請では、会社の実印登録もオンラインで完結できますが、事前準備が必要です。
7️⃣✉郵送時の注意点と法務局の管轄確認
郵送で登記申請を行う際は、以下の点に注意しましょう。
- 普通郵便でも可能だが、書留で送ると安心
- 封筒に「登記申請書在中」と明記する
- 申請書の上部に連絡先(電話番号)を鉛筆で記載する
- 管轄の法務局を事前に確認する(不動産登記と法人登記で管轄が異なる場合あり)
誤った法務局に送付すると、申請が受理されないため、必ず事前に確認しましょう。
8️⃣⏱登記完了までの期間とその後の流れ
法務局で申請が受理されると、通常は10日前後で登記が完了します。
登記完了の通知は特に届かないため、登記簿謄本(履歴事項全部証明書)を取得して確認しましょう。
登記完了後は、税務署や年金事務所などへの届出が必要です。
詳しくは別記事「【会社設立後の手続き】法人登記で終わりじゃない!事業開始までにやるべきこととは?」をご参照ください。
9️⃣✅まとめ|会社設立をスムーズに進めるために
会社設立には、約10種類の書類を正しく準備し、法務局へ提出する必要があります。
書類の内容や提出方法は会社形態によって異なるため、事前に確認しておくことが重要です。
また、資本金の設定は税制や信用力、融資審査にも影響するため、事業計画に応じて慎重に決めましょう。
設立後の手続きも含め、余裕を持って準備を進めることで、スムーズなスタートが切れます。
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この記事を書いた人
経産省 認定支援機関 株式会社エイチアンドエイチ
代表取締役 畠中 均(はたなか ひとし)
大手企業を退職後、20代で起業しゼロから複数の事業を展開。現在は、25年以上の経営経験を活かし、認定支援機関として現場経験豊富な経営者としての目線で中小企業支援を行うほか、士業・コンサル向けに中小企業支援の実践的ノウハウを学べる機会の提供にも注力している。