企業の経営状況を知るために、最も基本で重要な財務諸表の一つが「貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう、Balance Sheet)」です。
貸借対照表を見ると、会社が今どれくらいのお金や財産を持っているか、どれだけの借金があるか、そして自己資本がどれくらいあるかを一目で把握できます。
1. 貸借対照表の基本構造
貸借対照表は、「資産」=「負債」+「資本(純資産)」という関係で成り立っています。
- 資産:会社が持っているお金や財産のこと
- 負債:会社が返さなければならない借金や未払い金
- 資本(純資産):株主や経営者が出したお金や、過去の利益の蓄積

例えば、ある会社が現金100万円、売掛金30万円、建物200万円を持ち、借入金が50万円、資本金が150万円、利益剰余金が130万円あるとします。このとき、資産の合計は330万円で、負債+資本の合計も330万円になります。貸借対照表では、このように必ず資産と負債+資本の合計が一致するのが基本です。
2. 資産の種類
資産は、使いやすさや期間に応じて大きく2つに分けられます。
- 流動資産
1年以内に現金化できる資産です。
例:現金、預金、売掛金、在庫(商品)など
具体例:小売店ならレジにある現金や、まだ売れていない商品が流動資産です。 - 固定資産
1年以上使用する資産です。
例:建物、土地、設備、車両など
具体例:飲食店なら店舗の建物や厨房設備、車両などが固定資産です。
初心者向けのポイントは、「今すぐ使えるお金」と「長く使う財産」を分けて考えることです。
3. 負債の種類
負債も、返済期限に応じて2つに分けられます。
- 流動負債
1年以内に返済が必要な負債です。
例:買掛金(仕入先への未払い)、短期借入金、未払費用
具体例:スーパーで商品を仕入れたが、支払いが来月の場合、その未払い金が流動負債です。 - 固定負債
1年以上の長期借金です。
例:長期借入金、社債
具体例:工場を建てるために銀行から借りた10年ローンは固定負債です。
4. 資本(純資産)の意味
資本は会社の自己資金のことです。貸借対照表では「株主資本」と呼ばれることもあります。
- 資本金:株主から出資されたお金
- 利益剰余金:過去の利益の蓄積
例えば、創業時に株主から50万円出資され、事業で稼いだ利益が30万円たまっている場合、自己資本は80万円になります。自己資本が多い会社ほど、借金に頼らず安定して経営できる会社といえます。
5. 貸借対照表を見るポイント
貸借対照表は単なる数字の集まりではなく、会社の財政状態を読み解くためのツールです。
- 資産の中身を確認する
現金が十分あるか、在庫が多すぎないかなどをチェックします。
具体例:在庫が過剰だと、売れ残りで現金化できないため注意が必要です。 - 負債の返済能力を確認する
流動負債に対して、現金やすぐ回収できる売掛金が十分かどうかを見ます。
具体例:短期借入金が多くても、現金や売掛金で返済できれば問題ありません。 - 自己資本比率を確認する
自己資本 ÷ 総資産 × 100で計算します。
自己資本比率が高いほど、財務の安定性が高いです。
具体例:総資産300万円のうち自己資本150万円なら自己資本比率は50%で、安定した会社といえます。
6. 具体例で理解する貸借対照表
例えば、小さな飲食店Bの場合:
- 資産:現金30万円、売掛金10万円、在庫(食材)20万円、店舗設備100万円
- 負債:買掛金(仕入先への未払い)15万円、長期借入金40万円
- 資本:資本金50万円、利益剰余金55万円
この場合、資産の合計は160万円、負債+資本の合計も160万円でバランスが取れています。
- 流動資産(現金+売掛金=40万円)で流動負債(買掛金15万円)をカバーできる
- 自己資本(資本金+利益剰余金=105万円)が総資産160万円のうち約66%を占め、財務的に安定している
このように数字を一つひとつ確認すると、会社の強みや注意点が見えてきます。
7.貸借対照表を初心者がチェックする際のポイント解説
貸借対照表を読むとき、数字を順番に追っていくだけで会社の財政状態が見えてきます。初心者向けに、各ステップでどこに注意しながら貸借対照表を見るべきか解説します。
ステップ1:資産を確認する
- 現金や預金がどれくらいあるか
- 売掛金や在庫など、すぐに現金化できる資産は十分か
- 固定資産(建物や設備など)が適切か
ポイント:流動資産が多いほど、短期的な支払いに余裕があると判断できます。
ステップ2:負債を確認する
- 流動負債(1年以内に返す借金)がどれくらいあるか
- 長期借入金など固定負債の額
- 借金の返済能力は資産でカバーできるか
ポイント:流動資産で流動負債をカバーできれば、短期的な資金繰りは安心。
ステップ3:自己資本を確認する
- 資本金と利益剰余金の合計を確認
- 総資産に対する自己資本比率を計算(自己資本 ÷ 総資産 × 100)
目安:自己資本比率が50%以上だと、財務的に比較的安定していると判断できます。
ステップ4:資産と負債のバランスを確認する
- 「資産=負債+資本」が成立しているか確認
- 流動資産・固定資産、流動負債・固定負債のバランスが適切か
ポイント:バランスが偏りすぎている場合、資金繰りや借入リスクに注意。なお、各比率は事業者の業界ごとにその平均的な数値が異なります。例えば、製造に大型重機や機械が必要不可欠な業界は、固定資産の占める割合がサービス業など他の業種に比べ大きくなる傾向があります。そのため、その企業の実力を知るためにはまずは業界平均など比較すべき数値を調査しましょう。
ステップ5:数字から会社の状態をイメージする
- 現金が少ない → 支払いに困る可能性
- 借金が多い → 金利負担や返済リスク
- 自己資本が多い → 安定的で将来に備えやすい など
上記の流れで貸借対照表をチェックするだけで、初心者でも貸借対照表を見て会社の強みや課題を把握できます。
まとめ
- 貸借対照表は会社の財政状態を一目で確認できる表です。
- 「資産=負債+資本」というバランスで成り立っています。
- 流動資産・固定資産、流動負債・固定負債の区分を理解すると、お金の動きや安定性が見えてきます。
- 自己資本比率や負債のバランスを確認することで、会社の健全性を判断できます。
初心者でも、数字を一つひとつ見ながら貸借対照表を読むと、会社の現状や課題が自然に理解できるようになります。初心者の方は、まず様々な業界や規模の異なる事業者の実際のBSを読み解くことをオススメします。
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この記事を書いた人
経産省 認定支援機関 株式会社エイチアンドエイチ
代表取締役 畠中 均(はたなか ひとし)
大手企業を退職後、20代で起業しゼロから複数の事業を展開。現在は、25年以上の経営経験を活かし、認定支援機関として現場経験豊富な経営者としての目線で中小企業支援を行うほか、士業・コンサル向けに中小企業支援の実践的ノウハウを学べる機会の提供にも注力している。
