補助金を申請する際、よく求められる書類の一つに「履歴事項全部証明書(登記簿謄本)」があります。
本記事では、この書類がなぜ必要なのか、どうやって取得するのか、注意点は何かをわかりやすく解説します。



履歴事項全部証明書とは?補助金実務で重視される“企業の戸籍謄本”

履歴事項全部証明書とは、法務局が発行する法人登記簿の写しで、いわば企業の「戸籍謄本」に相当する公的書類です。
会社の基本情報だけでなく、過去の変更履歴までをすべて網羅している点が、他の証明書とは大きく異なります。


登記簿謄本・現在事項証明書との違いは?

書類名記載内容使われる場面
履歴事項全部証明書現在の登記事項+過去の変更履歴補助金申請、金融機関審査、許認可申請など
現在事項証明書現在の登記事項のみ(過去の変更なし)稀に使われるが、証明力に欠ける
登記事項要約書非公的・概要のみの参考資料役所や補助金での正式提出には使えない

補助金申請では「履歴事項全部証明書」が必要と明記されている場合がほとんどで、他の種類の証明書では代替できません


記載される主な内容一覧(例)

  • 商号(会社名)
  • 本店所在地(移転履歴も記載される)
  • 設立年月日
  • 目的(事業内容)
  • 資本金の額と変更履歴
  • 代表取締役の氏名(変更歴含む)
  • 役員の氏名・就任年月日・退任日
  • 機関設計(取締役会の有無など)

これらの情報が「過去から現在までの時系列」で全て記載されているのが特徴です。
たとえば、社名変更・本店移転・役員変更を行った場合、それぞれの履歴がすべて掲載されます。


具体的内容

① 会社法人等番号

12桁の法人識別番号で、法務局が登記法人ごとに付与します。法人の正確な特定や参照に利用されます 。

② 商号(会社名)

登記されている正式な社名。名称変更があった場合は、変更履歴も含めて記録されます。

③ 本店所在地

本社の住所を記載。移転歴がある場合、過去の住所は下線付きで表示され、新しい住所ほど下段に記載されます。

④ 目的(事業目的)

法人の事業内容を掲載。事業目的を変更した場合は、変更履歴が記載されます。

⑤ 資本金・株式関連

資本金の額、発行可能株式総数・発行済株式数・株式の種類や譲渡制限などが登記されます。増資や株式発行の履歴が反映されることもあります。

⑥ 役員・代表者に関する事項

取締役・代表取締役など役員の氏名、就任・重任・退任の年月日、退任理由(解任・死去など)も記録されます。過去に在任していた役員も履歴として確認可能です。

⑦ 機関設計・公告方法・その他

取締役会設置の有無や監査役の設置状況、公告の方法(官報・新聞・電子公告など)も登記事項として含まれています。

補助金の広場

当社からのアドバイス:
経営アドバイザ等支援者として履歴事項全部証明書を読むときは次のような点に留意しながら内容確認しましょう。
下線部分:現在効力のない「抹消済み」の登記内容を示します。過去の事業目的や前代表者などが確認できます。
役員の変遷:登記上は重任・退任理由も明記されるため、経営の安定性や構造変化を把握できます。
一連の変更履歴:設立→増資→移転→役員変更など企業の変遷が年表的に読み取れます。


なぜ補助金審査でこれほど重視されるのか?

補助金の審査担当者は、履歴事項全部証明書を通じて以下のような点を確認しています:

1. 【法人の実在性・正確性】

補助金は税金を財源としており、申請者が「実在する適格な法人かどうか」を確認する必要があります。

2. 【設立からの年数】

補助金によっては「創業○年以内」などの条件があるため、設立年月日の確認は不可欠です。

3. 【経営の安定性】

頻繁な代表者交代や本店移転は「経営が安定していない」と判断される可能性も。
特にM&A後などで履歴が複雑な法人では、加点・減点の判断材料にもなり得ます。

4. 【記載情報との一致確認】

申請書に記載された代表者氏名、法人名、住所などが、登記情報と1字単位で一致しているかチェックされます。
不一致があると、補助金不採択や書類不備になるリスクがあります。


コンサルタント目線で見た履歴事項全部証明書の活用ポイント

補助金の広場

当社からのアドバイス
補助金支援者やコンサルタントの立場からは、この書類によって以下の情報を早期にキャッチできます:

*顧客が過去に事業目的を変更していないか?
*旧代表者が別会社でも補助金トラブルを起こしていないか?
*過去の所在地移転歴や本店の所在が支援対象地域と一致しているか?

書類1枚から、支援可否判断やリスク把握ができる非常に重要な資料であることが分かります。

なお、履歴事項全部証明書は会社の基礎的な情報を証明する大切な書類であり、内容に変更があった場合は速やかに変更手続きをするべきものですが、実社会では履歴事項全部証明書の内容と実際の現状に差異がある事業者様は数多くいらっしゃいます。経営コンサルタン等支援者として履歴事項全部証明書を取り扱う場合は、まず内容が現状の即しているかを確認しましょう。


多くの補助金制度では、対象者の条件に「法人格があること」「○年以内に設立された企業」などが含まれます。
そのため、提出された事業計画や申請者情報が、実際の登記情報と一致しているかをチェックする必要があります。

特に以下のような補助金では、ほぼ確実に履歴事項全部証明書の提出が求められます:

  • ものづくり補助金
  • IT導入補助金
  • 小規模事業者持続化補助金(法人の場合)など

取得方法は大きく2つあります。

① 法務局の窓口で取得する

*最寄りの登記所(法務局)に直接出向いて申請します。

*「会社法人等番号」が分かればスムーズに取得可能です。

*手数料:1通600円(現金・収入印紙)/ 請求方法により料金は異なる

② オンラインで取得する

  • 法務省の「登記・供託オンライン申請システム(登記ねっと)」を利用します。
    https://www.touki-kyoutaku-online.moj.go.jp/)
  • 事前に利用者登録が必要ですが、自宅やオフィスから申請できるのが便利です。
  • 紙の証明書は郵送で届きます。

  • 発行から3か月以内のものが必要とされるケースが多いため、申請直前に取得を。
  • 補助金申請書に記載された法人名や代表者氏名と登記内容が一致しているかを確認しましょう。
  • 電子データでの提出が認められている補助金もありますが、紙提出を求められるケースもあるため、要確認です。

履歴事項全部証明書は、補助金申請において必須ともいえる重要書類です。
取得方法自体はシンプルですが、提出のタイミングや記載内容の整合性には十分注意しましょう。
不安な方は、専門家の支援を活用することで、スムーズかつ安心して申請が行えます。


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補助金の広場代表畠中

大手企業を退職後、20代で起業しゼロから複数の事業を展開。現在は、25年以上の経営経験を活かし、認定支援機関として現場経験豊富な経営者としての目線で中小企業支援を行うほか、士業・コンサル向けに中小企業支援の実践的ノウハウを学べる機会の提供にも注力している。