この記事を読んでほしい人
- M&A支援ビジネスに参入したい士業(行政書士・税理士・弁護士など)や経営コンサルタント
- M&A実務に興味があるが、基礎知識がなく不安を感じている方
- 中小企業の事業承継支援を検討している専門家 など
この記事を読むと分かること
- 株式譲渡・事業譲渡・会社分割の基本的な仕組み
- 各手法のメリット・デメリット
- M&A支援の現場で使い分けるための視点
【目次】
- 株式譲渡・事業譲渡・会社分割とは?基本概念の解説
- なぜM&A手法は複数あるのか?選択の背景と意図
- 【比較表】3つのM&A手法の違いまとめ
- 各手法の詳細解説
4-1. 株式譲渡の特徴と実務ポイント
4-2. 事業譲渡の特徴と実務ポイント
4-3. 会社分割の特徴と実務ポイント - ケース別!手法選定の判断基準
- 士業・コンサルが押さえるべき支援ポイント
- よくある誤解と実務での注意点
- まとめ:最適な手法を選ぶために
1. 株式譲渡・事業譲渡・会社分割とは?基本概念の解説
M&Aや事業承継の現場では、「株式譲渡」「事業譲渡」「会社分割」といった手法が用いられます。どれも企業の経営資源を移転するための手法ですが、それぞれ仕組みや影響範囲が異なります。
- 株式譲渡:会社の株主が保有株を第三者に売却することで、経営権が移転します。会社そのものはそのまま存続します。
- 事業譲渡:会社の特定の事業・資産・契約等を、別の会社や個人に個別に譲渡する手法です。会社の一部を売るイメージです。
- 会社分割:会社の事業を分離して新設会社や既存の会社に承継させる会社法上の再編手法。法的には吸収分割と新設分割があります。
2. なぜM&A手法は複数あるのか?選択の背景と意図
M&Aの目的や相手方の事情、事業の内容によって最適な手法は異なります。
例えば…
- 売り手が法人のまま残りたいか、消滅しても良いか
- 承継したいのが全体か一部か
- 契約や許認可をスムーズに引き継ぎたいか
- 税務面のメリット・デメリットを重視するか
- 既存顧客・取引先・関係企業との関係を現状通り維持したいか
- 銀行等出資者の理解が得られやすい手法か
など、さまざまな条件を踏まえて選択されます。
3. 【比較表】3つのM&A手法の違いまとめ
比較項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 | 会社分割(吸収・新設) |
---|---|---|---|
取引対象 | 株式 | 資産・負債・契約など | 事業(資産・負債を包括承継) |
手続きの複雑さ | 比較的簡単 | 契約個別、やや煩雑 | 法定手続が必要、最も複雑 |
許認可・契約の承継 | 通常そのまま継続可能 | 個別に引き継ぎが必要 | 包括承継されることが多い |
税務処理の特徴 | 売主に譲渡益課税 | 資産売却益に課税 | 吸収分割では時価譲渡扱いの可能性 |
組織再編の柔軟性 | 制限あり | 高い | 非常に高い |
主な活用ケース | 経営権の移転が目的 | 一部事業のみを売却したい場合 | 事業再編や一部承継に適している |
4. 各手法の詳細解説
4-1. 株式譲渡の特徴と実務ポイント
- 株主が保有する株式を売却することで会社の支配権が移転
- 従業員や契約関係がそのまま継続するため、比較的スムーズ
- 個人株主からの譲渡には譲渡所得税がかかる
- デューデリジェンスにより簿外債務などのリスク把握が必要
4-2. 事業譲渡の特徴と実務ポイント
- 会社全体ではなく、選択した事業や資産のみを譲渡
- 契約・許認可・従業員の引継ぎが個別対応になる
- 顧客の引継ぎに同意が必要な場合も多い
- 法人税法上、譲渡益課税が発生
4-3. 会社分割の特徴と実務ポイント
- 法定再編行為であり、会社法に則った手続きが必要
- 分割型によって「吸収分割」と「新設分割」に分類
- 包括的に事業を引き継げるため、契約や従業員もスムーズに承継
- 複雑な組織再編にも対応できる反面、税務や登記の専門性が高い
5. ケース別!手法選定の判断基準
ケース | 最適な手法 | 理由 |
---|---|---|
全株主から合意を得られる | 株式譲渡 | 手続きが簡便で包括承継が可能 |
会社の一部事業のみを売却 | 事業譲渡 | 必要な部分だけを売却できる |
法的に一体の事業を承継したい | 会社分割 | 包括承継で再契約不要、組織再編に有利 |
売り手会社を清算したい | 事業譲渡 or 分割 | 経済的・法的な切り分けがしやすい |
6. 士業・コンサルが押さえるべき支援ポイント
M&A支援に関わる専門家にとって、M&Aを成功させる為には、売手企業及び買手企業を見つけ出すことは主たる業務となりますが、それと共に習得すべき重要なスキルとして手法ごとの違いと法務・税務・労務の観点を押さえることは必須です。
- 行政書士・弁護士:契約書作成、許認可対応、会社法の手続き支援
- 税理士:譲渡益や法人税の影響、組織再編税制の適用可能性
- 社会保険労務士:雇用契約、就労状況の確認等のDDなど
- 中小企業診断士・コンサル:スキーム設計、PMI(統合後支援)
手法の選定段階から実務的なアドバイスができる専門家は、経営者からの信頼を得やすくなります。
7. よくある誤解と実務での注意点
- 「株式譲渡=簡単」という認識は危険
- 事業譲渡では、売却対象が明確になっていないと後で紛争に
- 会社分割は実務経験が少ないと、税務上のリスクや登記漏れが起きやすい
- M&A手法ごとに関係者への説明資料も変えるべき
8. まとめ:最適な手法を選ぶために
M&A支援においては、単にスキームを知るだけでなく、「なぜこの手法が選ばれるのか?」という視点が重要です。株式譲渡・事業譲渡・会社分割にはそれぞれの強みと弱みがあります。
その企業、その目的、その状況に応じて、最適な方法を設計・クライアントに提案できることが、士業・コンサルとしての大きな価値や強みにつながります。

この記事を書いた人
経産省 認定支援機関 株式会社エイチアンドエイチ
代表取締役 畠中 均(はたなか ひとし)
大手企業を退職後、20代で起業しゼロから複数の事業を展開。現在は、25年以上の経営経験を活かし、認定支援機関として現場経験豊富な経営者としての目線で中小企業支援を行うほか、士業・コンサル向けに中小企業支援の実践的ノウハウを学べる機会の提供にも注力している。
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