会社分割とは?企業再編やM&Aに活用されるスキーム

会社分割とは?企業再編やM&Aに活用されるスキーム
会社分割とは、企業が自社の事業の一部または全部を切り離し、他の会社に承継(引き継ぎ)させる手法のことを指します。
この手法は、M&A(企業の合併・買収)の一種として活用されるほか、グループ会社内での事業再編や経営資源の再配置にも幅広く利用されています。
同じように事業を他社へ移す方法として「事業譲渡」がありますが、両者にはいくつかの違いがあります。
特に大きな違いとして、会社分割では対価として株式を交付できる点が挙げられます。なお、「新設分割」では、株式交付が必須となります。
この記事では、会社分割についてM&A初心者に向けてその概要を解説いたします。
会社分割の活用事例

会社分割が行われる理由はさまざまですが、まずは具体的な活用事例をご紹介します。
「会社分割とは何か」を理解しやすくなるはずです。
活用例①:不動産の売却時に税金を抑えるために活用
たとえば、会社が長年所有していた土地や建物の価値が上がったタイミングで、それを売却したとします。
このとき会社名義で不動産を売却すると、以下のような税金がかかります。
・法人税
・法人住民税
・法人事業税
・印紙税
・消費税(※建物を売却した場合)
また、法人の利益はすべて合算されて課税対象となるため、売却益だけでなく本業の利益なども影響します。そこで、節税対策として会社分割を使った次のような方法があります。
▼会社分割の活用方法:1社だった会社を次の2つに分割します。
①不動産を保有する会社
②本業を行う会社
そして、①の不動産会社の株式を他社に売却します。
この場合、創業者(個人)は不動産を販売したのではなく、株式を売却した形になるため、税率は約20%(譲渡所得課税)に抑えられます。
このように、法人で不動産を直接売るよりも税金対策上有利な条件で売却できるため、
実際に大手不動産会社が中小企業から不動産を取得する際にも使われる会社分割の活用例になります。
活用例②:子どもに会社を公平に承継させるために活用
たとえば、創業者に長男と次男がいて、2人に会社を継がせたいと考えたとします。
これまでは「長男に株式51%、次男に49%」のように分けて相続、長男に最終決定権を持たせるという方法などがありました。しかしこれでは、2人の間で「不公平感」が生まれやすく、兄弟関係に悪影響が出ることもあります。
このような問題を避けるために、会社分割を活用します。
▼会社分割の活用例:例えば、会社の本業から得られる収益と会社が保有する不動産の価値がある程度同等の場合は会社を分割して次のようにします。
①本業を行う会社(長男に承継)
②不動産を保有する会社(次男に承継)
それぞれの子どもが100%の持株と経営権を持てるようにすることで、「自分の会社」として独立性を保てるようになります。
このように、相続時のトラブルを防ぎ、家族間の公平な承継を実現する手段として会社分割を活用される創業オーナーの方もいらっしゃいます。
活用例③:社内の事業部を分社化して経営を効率化
会社分割は、社内の事業部ごとに会社を分けて、より効率的な経営を目指す際にも活用されます。
▼分割の目的とメリット:
・経営責任と意思決定の明確化
・ 事業ごとの戦略を立てやすくなる
・ 成果の評価や人事制度を独立して設計できる
・不採算事業の売却や、特定事業への資金調達がしやすくなる
・ 法的・財務的リスクを他事業から切り離せる
・人材のモチベーション向上(経営者候補の育成など)
たとえば、本社機能を親会社として残し、各事業部を子会社として分社化することで、
それぞれの事業の自立性と成長性を高めることができます。
このように、会社分割は単なる「会社の分け方」ではなく、節税、相続対策、経営の効率化など、さまざまな目的で活用できる柔軟な手法です。
M&Aや事業承継、グループ戦略の一環としても注目されており、企業の将来設計において有力な選択肢の一つです。
主な会社分割手法とは
▶吸収分割
吸収分割は、分割会社が保有する事業を、すでに存在する他の会社に承継させる方法です。
この吸収分割は、経営の効率化や、採算が取れていない事業の整理などを目的として実施されることが多いです。
吸収分割は、「誰が対価(株式など)を受け取るか」によって、次の2種類に分かれます。
※分社型吸収分割
◆対価(株式など)を分割会社(売り手)が受け取る方式
→ 親会社・子会社の関係を作るときによく利用されます
※分割型吸収分割
◆対価を分割会社の株主が受け取る方式
→ 兄弟会社(横の関係)をつくる場合に適しています
▶新設分割
新設分割は、分割会社の事業を、新たに設立する会社へ引き継ぐ方法です。
主に、新規事業の分離独立や子会社化の際に活用されます。
ただし、新たな法人を設立する必要があるため、吸収分割よりも手続きが複雑になる傾向があります。
新設分割は、対価の受け取り先によって次のように分けられます。
※分社型新設分割
◆対価を分割会社が受け取る方式
分割会社は、新設会社の株主となります(親会社)
→ 持株会社化やグループ再編の際によく利用されます
※分割型新設分割
◆対価を分割会社の株主が受け取る方式
株主は、分割会社と新設会社の株式を両方保有する形になります
→ グループ再編や経営権の分散に適しています
▶補足:共同分割という手法もある
会社分割の応用的な手法として、「共同分割」という形式も存在します。
※共同分割とは?
複数の企業が、それぞれの事業を切り離し、1つの会社にまとめて承継させる方式です。
例:A社とB社がそれぞれの事業を切り出し、新設または既存のC社に一括して引き継がせる
主な種類:
◆共同新設分割:新たに設立した会社が承継する場合
◆共同吸収分割:すでにある会社が承継する場合
このように、共同分割はスケールメリットのある事業再編を行いたい場面で活用されます。
会社分割と事業譲渡の違い
会社分割の特徴
会社分割とは、企業が有する事業部門を切り出し、他の法人(分割承継会社)に引き継がせる手法です。
この手法では、対象となる事業に関する資産・負債・契約関係・許認可・従業員などを一括して包括的に承継させることが可能です。
また、対価として現金ではなく株式を交付できる点が大きな特徴であり、企業再編における柔軟なスキーム設計を可能にします。
一定の要件を満たす場合には「適格組織再編」として税務上の優遇措置も受けられるため、企業グループ内の再編や中長期的な成長戦略の一環として多く活用されています。
事業譲渡の特徴
事業譲渡とは、企業が事業の一部または全部を、特定の資産や契約を選別したうえで他社に譲り渡す取引です。会社分割とは異なり、包括的承継は行われず、個別に譲渡対象を選定する点が特徴です。
このため、取引先や従業員との契約、許認可などは個別に移転手続きや再取得が必要となります。
一方で、簿外債務や不要な資産・契約を除外することが可能であり、経営リスクを最小限に抑えて事業を取得できるというメリットがあります。
ただし、事業譲渡は原則として現金による対価の支払いが必要であり、適格組織再編には該当せず、税制優遇の対象にもなりません。

会社分割のメリットとデメリット
最後に会社分割のメリットとデメリットを解説します。
◆会社分割には、以下のような利点があります。
1)資金調達が不要(株式を対価とできる)
会社分割では、対価として株式を交付できるため、買収の際に現金を用意する必要がありません。資金負担を抑えながら、効果的な事業承継・再編が可能です。
2)包括的承継により手続きが簡素
事業譲渡とは異なり、会社分割では契約・資産・負債・許認可・従業員などが包括的に移転されます。そのため、個別の契約や届出の手間を大幅に削減でき、スムーズな移行が実現します。
3)必要な事業のみを選んで引き継げる
株式譲渡では会社全体を取得する必要がありますが、会社分割では特定の事業のみを対象として承継できるため、不要な部門を除外したスリムな再編が可能です。
4)事業シナジーの創出が期待できる
承継する事業が自社の既存事業と親和性が高い場合、統合後のシナジー(相乗効果)を得やすくなります。
5)税制優遇措置が受けられる
一定の条件を満たす「適格会社分割」として実施した場合、法人税などの課税が繰り延べられるなどの税制上の優遇措置が適用されます。また、原則として消費税が課税されない点もメリットです。
◆会社分割のデメリット
一方で、会社分割には以下のような注意点もあります。
1)株式希薄化のリスク
分割対価として株式を発行するため、既存株主の持分比率が低下(希薄化)する可能性があります。これにより、株価に影響を及ぼすケースもあります。
2)新たな株主構成に伴う経営リスク
分割型の会社分割では、分割会社の株主が承継会社の株主となるため、経営権への影響や敵対的株主の混在リスクにも注意が必要です。
3)負債も含めた承継が原則
事業譲渡とは異なり、会社分割では負債や債務も含めて一括して承継されるため、想定外のリスクも同時に引き継ぐ可能性があります。
4)PMI(統合プロセス)の複雑化
組織体制や人事制度の統合、システムの移行など、統合後の運営(PMI)が複雑化するリスクがあります。これに失敗すると、業務効率や従業員の士気に悪影響を及ぼす可能性があります。
5)手続きや関係者対応が煩雑
会社分割には、債権者保護手続・労働組合との協議・登記手続きなど、多くの法的・実務的対応が必要です。ただし、「簡易分割」や「略式分割」に該当する場合には、株主総会決議が不要となるなど、一定の簡素化も認められています。
いかがでしたでしょうか、会社分割はその活用方法の自由度が高いため、様々な要望を実現するための手段として活用できます。この記事が皆様のお役に立てば幸いです。

この記事を書いた人
経産省 認定支援機関 株式会社エイチアンドエイチ
代表取締役 畠中 均(はたなか ひとし)
大手企業を退職後、20代で起業しゼロから複数の事業を展開。現在は、25年以上の経営経験を活かし、認定支援機関として現場経験豊富な経営者としての目線で中小企業支援を行うほか、士業・コンサル向けに中小企業支援の実践的ノウハウを学べる機会の提供にも注力している。