事業承継の方法として注目されているM&A(企業の買収・合併)。その中でも「株式譲渡(全株式取得)」は特に中小企業の現場でよく使われています。
この記事では、初心者でもわかりやすいように、株式譲渡のしくみを【図解】しながら解説し、さらに【実際の事例】を交えてメリット・デメリットをお伝えします。
株式譲渡(全株式取得)とは?
▶株主から株をすべて買うことで会社をまるごと引き継ぐ手法
株式譲渡とは、会社の株式を売却することで、会社の経営権(オーナー権)を買い手に移すM&Aの手法です。株主が保有するすべての株式を買い手が取得することで、会社のオーナーが交代します。


全株式取得によるM&A
株式取得は、会社法で特別に定められた手法ではなく、一般的な株の売買取引です。
その為、会社法上の特別な手続きはありませんが、多額の売買取引となるため通常株式会社としての取締役会での決議などは必要です。
【株式取得によるM&Aの特徴】
・会社名や登記、契約関係、従業員との関係に変更なしで手続きが簡単
・売り手側会社は売却益を得る
・買い手側会社は負債や不良資産を含め全てを引き継ぐ など
サンプル事例:印刷会社の事業承継M&A(株式譲渡)
【背景】
ある地元密着型の印刷会社(年商1億円、社員8名)の社長(60代)が「後継者不在」に悩み、事業承継を検討。
【対応】
社長が保有する全株式を、同業で東京に拠点を持つ印刷会社に株式譲渡。従業員や事業内容はそのまま引き継がれ、買い手は地域に新たな販路を獲得。
【結果】
・売り手は安心して引退
・買い手は地域進出+ノウハウの獲得
・従業員の雇用も継続され、売り手・買い手共にWin-Winの結果に
株式譲渡のメリット
1)会社の状態をまるごと引き継げる
・契約、従業員、顧客、許認可がすべて維持される。
▶「名前も、口座も、契約書も」そのまま使えるメリット
※買い手にとって【手続きがシンプル】【移行コストが少ない】【対外的にも混乱が少ない】等のメリットがある
2)売り手は個人として税制メリットを得やすい
・株式売却にかかる税金は概ね20%前後(例外有)
・事業譲渡に比べ、手元に残る金額が多くなるケースもあり
株式譲渡のデメリット
1)隠れたリスクも一緒に引き継ぐ可能性
・過去の借金、契約上のトラブル、税務問題など
対策:買い手は「デューデリジェンス(精査)」が必須
2)許認可や取引契約に影響が出ることも
・業種によっては、オーナー交代で許認可の「再取得」が必要な場合あり
・主要取引先との契約に「オーナー変更時の契約見直し条項」があるケースも要確認
まとめ:株式譲渡は「シンプルで引き継ぎやすい」王道手法
株式譲渡(全株式取得)は、会社の中身をそのまま維持しながら、所有者(オーナー)だけを変える方法です。特に中小企業の事業承継においては、最も実務的でスムーズな手法として広く活用されています。
ただし、リスク調査(デューデリジェンス)や契約の確認をしっかり行わなければ、後で思わぬ問題に発展することも。このリスク調査を【客観的な立場】で【常識的な価格】で実践してくれる専門家、又は、財務DD、法務DD等など専門性の異なるリスク調査専門家を紹介してくれるM&A支援者と連携しながら、M&Aを進めることが成功への近道といえます。

この記事を書いた人
経産省 認定支援機関 株式会社エイチアンドエイチ
代表取締役 畠中 均(はたなか ひとし)
大手企業を退職後、20代で起業しゼロから複数の事業を展開。現在は、25年以上の経営経験を活かし、認定支援機関として現場経験豊富な経営者としての目線で中小企業支援を行うほか、士業・コンサル向けに中小企業支援の実践的ノウハウを学べる機会の提供にも注力している。