2023年8月3日

補助金交付の減額リスクとは?

はじめに

皆様には、補助金の交付決定を受け喜んでいたところ、最終的に支払われた金額が思っていたよりも少なく、残念な思いをされるだけでなく、資金繰りに苦しい思いをされた、または、そういう話を聞かれた方も多いのではないでしょうか。

以下では、このようなケースを回避し、減額が生じそうな場合も、程度を予測するとともに、減額の最少化に向けた主体的な取り組みのために、理解しておくべきことや必要な対応についてご説明いたします。

交付決定を受けた事業計画で実施する必要性

実際に支払われる補助金の金額は、交付決定を受けた補助事業者が、事業完了後に国等に提出する実績報告書などの審査を経て、最終的に決定されます。

この審査の段階で、交付決定されている「事業計画と異なる内容の事業を行っている」、「事業計画と異なる経費支出を行っている」と判断された場合は、その部分は「補助対象外」とされ、金額が減額されることとなります。

このことは、補助金の交付決定は、申請の内容が、国等の政策目標の目的に合致しており、意義があるという判断のもとになされているために、補助事業は、交付決定を受けた計画内容で実施しなければならないという考え方が根底にあります。

交付決定を受けた事業計画からの変更

では、交付決定を受けた事業計画からの変更は一切認められないのでしょうか。

「情勢が変わったのだから、それに応じて事業を行っただけで、やむを得ないのではないか」と思われるケースは多々あるといえます。

このような事業計画からの変更が生じた場合の対応について、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金適正化法)」における「経費配分の変更」、「事業内容の変更」についての規定に沿って、補助金制度それぞれにおいて手続きが設けられています。

この手続きを行い、変更が生じた場合も、支払われる金額の減少を最小限に抑えることが非常に重要であるといえます。ですが、変更内容の実施に先立って行う必要があることや、内容によっては変更が認められない場合もありますので注意が必要となります。

変更が生じた場合の対応の概要

以下では、変更が生じた場合の対応の概要をご説明いたします。
大きくは、(1)変更の承認を受ける必要がある場合、(2)特に手続きが必要ない場合、とに分けられます。

(1)変更の承認を受ける必要がある場合

事業内容の変更はもちろん、大きな経費配分の変更は、補助金を交付する国等の立場からすると、交付決定を行った事業の目的達成が困難となることが懸念されます。
このため、原則的には、「あらかじめ事業計画変更の「承認」を受ける」ことが求められています。(2)の特に手続きが必要ない場合を除き、基本的にはあらかじめ承認を受ける必要があると考えることが適切です。

(2)特に手続きが必要ない場合(「軽微な変更」)

一方で、すべての変更について承認を得ることを求めると、国等も補助事業者も、事務が膨大となることが想定されます。そこで、国等において、それぞれの補助金制度について「軽微な変更」の内容を定め、これらに限っては承認を受けることなく実施することができることとされています。
ここで、「軽微な変更」に該当するか否かの判断に迷う場合は、あらかじめ国等に確認することが重要かつ適切であるといえます。
なお、一般的に「軽微な変更」の基準については次のようなもの考えられています。
①経費配分に関する「軽微な変更」
 ・経費使用の効率化に貢献するものであり、事業の目的達成に支障がないと認められる場合
 ・経費の目的を実質的に変更するものではない場合
②事業内容に関する「軽微な変更」
 ・事業の目的、能率に関係のない事業計画の細部の変更の場合
 ・事業の目的の変更はなく、かつ、より能率的な目的達成に貢献すると考えられる変更の場合
 ・目的達成のために、関連する事業要素間での弾力的な遂行を認める必要がある場合

以上をもとに、たとえば「小規模事業者持続化補助金」では、具体的に次のとおり定められています。

変更承認申請書の提出の要否について

出所:全国商工会連合会「令和元年度補正予算・令和3年度補正予算小規模事業者持続化補助金<一般型>補助事業の手引き(第11回受付締切分)」2023年4月

円滑に変更承認を受けるために

それでは、円滑に変更承認を受けるために注意すべきことはどのようなことでしょうか。
交付決定判断の根本に当たる「事業計画の目的」を変更するものではないことは大前提です。
そのうえで、次のような理由による計画変更は承認を受けやすいものと考えます。

(1)交付決定後に生じた事情の変化によるものであること

・当初の計画策定時には想定されなかった経営環境の変化などの事情の変化への対応であること
・事情の変化は、補助事業者自身の責任ではない理由により生じたものであること

たとえば「設備を納入する業者側の部品調達困難などの都合で、事業計画とまったく同じ設備導入が困難になったので同様の設備を導入する」といったイメージです。

(2)変更することにより目的達成に一層貢献するものであること

経費配分の変更、事業内容の変更いずれの場合も、変更前よりも、目標達成の可能性が高まる、効率 的な目標達成が期待できると考えられること

たとえば「交付決定時とまったく同じ設備導入は業者都合で困難になったが、この間の当社のスキル向上、業務の見直しを背景に、事業計画に記した設備よりも、作業効率の向上が期待できる別の設備をより少額で導入する」といったイメージです。

 また、組織として対応できることはどのようなことでしょうか。

経営者、事業計画推進者、補助金経理担当者など補助金の事業計画に関わる方々が、あらかじめ変更承認申請の手続きについて認識を共有しておくことが肝要と思われます。詳細を把握しておく必要はないと思いますが、「何かやり方があったような…」と気付くことができれば、社内での相談のきっかけとなると思われます。

次に、事業計画の進捗管理を適切に行い、関係者で情報共有しておくことで、変更が生じる可能性への感度を高めることが重要であると考えます。

そのうえで、変更の必要が生じた場合は、変更後の事業内容をどのようなものにするか、社内で多面的に検討することができれば、選択肢が広がり、承認されやすい計画変更が期待されます。

さらに、承認されやすさといった視点も踏まえた変更承認申請書のまとめ方、作成については、適宜、外部の知見を活用することも一つの手段として考えらます。

まとめ

  • 補助金の実際の支払金額は、事業完了後の審査により決定されます。事業計画と異なる内容を実施し、経費を変更した場合は減額されることが懸念されます。この影響を最小化するために、変更承認申請等の活用が考えられます
  • 変更承認の手続きを行うことは、減額の程度の予測に役立つとともに、減額の最少化に向けた主体的な取り組みが可能です
  • 「軽微な変更」は承認を経ずに実施できる場合もありますが、基本的には変更承認を受ける必要があると認識しておくことが適切です。また内容によっては変更承認を受けることができない場合もあります
  • 計画変更を行う場合も、事業計画の目的は変更しないことが大前提です。
  • 変更承認を受けやすくするためには、やむを得ない事情の変化への対応や、目標達成へ一層貢献する変更であることを示すことが重要です。
  • 社内での変更承認申請についての認識と事業計画進捗管理の共有が必要です。計画変更を行う場合は、社内で変更後の事業内容を多面的に検討することが重要です。
  • 外部の知見を活用して申請書をまとめることも有効です

谷口

この記事を書いた人
谷口 俊一

経営向上企画室moyai(もやい) 代表
広島県庁にて約20年にわたり、主に商工労働局に在籍し、企業の創業、資金調達、販路開拓や人材確保の取組、災害からの復旧などの課題について様々な行政施策に携わり、行政の支援施策に関し豊富な知識を持つ。現在、経営コンサルタントとして主に広島県にて活躍中。